香港市民の反応

中国による香港国家安全法案の導入に関連して、香港情勢について解説する記事をよく目にします。

 

それらの記事は、経済的には、中国による香港への支配の強化が香港の自由を簒奪するものとして、金融都市としての地位を低下させる可能性に言及します。

政治的には、中国による民主派への締め付けの強化が解説されます。

国際面では、米国が香港への優遇政策の取り消しを宣言し、中国への圧力を強めています。米中戦争激化の一因として取り上げられています。(5月29日のトランプ大統領の演説では、中国への制裁を強く打ち出したものではありませんでしたが)

 

これらの記事は、おそらくすべて正しいのでしょう。但し、香港市民のリアルを読み取れる記事はありません。あってもデモ隊の激しい映像を、香港市民の意思として伝える報道がほとんどのように見えます。

 

確かに昨年までは、そうしたデモ隊の活動は香港市民の感情の一部を表していたように思います。どこまで暴力的な活動を許容するかはありますが、政府と中国政府への強い反発心は広く共有されていました。その結果、11月の区議会議員選挙では民主派が圧勝しました。

 

しかし、香港国家安全法案に対する市民の反応は、どうも去年までの市民のそれとは違っているように感じます。

5月22日に、全人代で法案の導入が公にされた直後の週末、どれだけ激しいデモが起きるのかと構えていましたが、規模としてはさほど大きなものにはなっていません。数千人は集まったのですが、去年のデモはもっと大規模で激しかったです。

 

私の印象が仮に正しいとして、要因を想像すると

  • 新型コロナ禍でデモの流れが切れた
  • デモ、コロナ禍による不況が深刻化、活動の継続が困難に(失業率は5.2%に悪化)
  • デモ隊の勢力の衰え(昨年の大学攻防戦からの傾向)
  • 市民がデモ隊による破壊行為を望んでいない
  • 国家安全法によって中国が直ちに香港の自由を奪うとは考えていない

こうしたことから、デモ活動の制限に繋がる国家安全法に、強い反対が起こらないのかもしれません。(一方で、香港市民が中国政府を基本的に恐れていることも事実と思います「銅鑼湾書店事件」)

 

また、この法案が狙っているのは外国勢力による香港情勢への介入の排除になります。

米国がデモ隊を、資金面、戦略面から支援しているのは、報道によって一般市民も広く知るところです。こうした外国勢力の介入を、一般市民が当然として受け入れている訳ではないように思います。

 

米国の国家安全保障問題を担当するオブライエン大統領補佐官は 5月24日、記者団に対して「私たちの心は(国家安全法に反対して)抗議活動を行う市民とともにある」と支持を表明しました。

香港を政治闘争に利用されることなく、これまで通りに自由で活力ある場所であることを望みます。