香港のデモについて

今も目の前のテレビでデモの映像が流れています。

 

6月から本格的に始まった香港でのデモについて、簡単にまとめてみます。

 

◆デモのきっかけ

台湾で、香港人カップルの男性が女性を絞殺する事件があり、犯人は香港で拘束されました。事件は台湾で起きたため、殺人罪での訴追は台湾で行われるべきですが、香港と台湾の間で容疑者引渡しの条約が締結されておらず、犯人を殺人罪で裁くことができません。

そこで香港政府は、容疑者の引渡しができなかった台湾、中国大陸、マカオへ、引渡しが可能になるよう法改正をしようとしました。(いわゆる「送中条例」)

この法律が制定されると、中国政府に目を付けられれば* 容疑者として身柄を大陸に送られる可能性があるため、香港市民の大部分が反対し、大規模なデモ**が発生するようになりました。

 

* 市民の送中条例への警戒感は、2015,18年に発生した銅鑼湾書店関係者の失踪事件が影響している。銅鑼湾書店は中国共産党を批判する書物を扱っていた。

** 普通選挙が実施されない香港では、デモによって政治的な主張を表明するのが一般的。

 

◆これまでの流れ

6/9 大規模デモ (主催者発表103万人, 警察発表24万人)

6/12 立法会での審議妨害を目的にデモ隊が周辺道路の占拠を画策。警察と激しく衝突。

6/15 林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官が、法改正審議の無期延期を発表。

6/16 大規模デモ (主催者発表200万人, 警察発表34万人)  

7/1 デモ隊の一部が立法会へ侵入、破壊活動を行う。

7/21 元朗駅で地元のヤクザが帰宅中のデモ隊を襲撃。警察が適切な措置を取らなかったとして批判が強まる。

8/5 大規模ゼネスト。

8/12-13 デモ隊が空港を占拠し数百便が欠航。デモ隊による中国人記者へのリンチがテレビ中継される。

8/20 デモ隊と警察が衝突する中、デモ側の女性が右目を負傷。以降、しばらく右目を隠すポーズがデモの象徴となる。

8/31 太子駅で警察がデモ隊を激しく殴打。以降、警察の暴力を象徴する日とされる。

9/4 キャリー・ラム行政長官が送中条例の撤回を表明。

10/1 国慶節での大規模デモ。警官を襲っていた高校生のデモ隊が実弾を被弾。

10/4 超法規的措置として「覆面禁止法」を制定、翌日施行。4日晩は激しい破壊活動が行われた。

11/4 デモに参加していた大学生が転落死。(初の犠牲者)

 

◆現状

デモ隊による暴力は継続していますが、規模は小さくなってきています。

勢力を維持するためか、屋内での放火や刃物による警察官への襲撃など、暴力の先鋭化が目立ちます。

武力では圧倒的に警察が優勢で、デモ隊は警察を避けて破壊活動をしています。

11/24に区議会選挙が予定されており、政治活動絡みの衝突が目立つようになっています。(選挙事務所の破壊、立候補者への襲撃など)

 

◆私見

香港の自由は守られるべきだと考えます。送中条例にも反対ですので、6月までのデモ活動と、現在も行われる平和的なデモには賛成します。

一方、デモ隊の暴力には反対です。

彼らが要求する五大要求***を、現在の破壊活動で実現することは不可能です。

無意味な破壊活動によって、被害を受けているのは香港市民です。毎週破壊されるMTR (地下鉄) の職員、飲食店の店員、街の清掃員、他にも多くの市民がこの活動によって生活を脅かされています。

それでも香港市民の多くから支持されているなら別ですが、周囲の香港人で暴力を肯定する人はほとんどいません。むしろ怒り、冷笑、落胆する香港人ばかりです。

 

*** 五大要求とは①送中条例の撤回②普通選挙の実現③警察へ独立調査委員会設置④逮捕されたデモ参加者の釈放⑤民主化デモを暴動とした認定取り消し

 

◆これから

よく日本のメディアで言われますが、中国大陸から人民解放軍や武警がやって来ることはありません。香港警察で十分に対応できていますし、中国がアメリカと激しく争う中で、国際的な批判を浴びるリスクを冒すとは思えません。

今のようなデモは当分続きますが、完全に行き詰まりです。逮捕者の増加による戦力減と閉塞感による離脱から、じわじわと活動は衰えていくでしょう。一方、先鋭化した部隊によってテロのような深刻な事件が起きる可能性は高いと思います。

 

デモが警察により制圧されれば、警察勢力の肥大化が心配されます。香港市民としても警察への不信感は強く、五大要求にある「独立調査委員会の設置」は実現すべきと考えます。(キャリー・ラムは現状の組織で調査可能としていますが)

 

◆根本的な原因

今回のデモのそもそもの原因は、香港の教育にあります。

香港の教育はかなりの部分をキリスト教系の私立学校に頼っています。そうした学校は英国統治時代からのもので、自由と民主主義の素晴らしさと中国共産党の社会制度の酷さを教育します。

このために若者は、教わったことと社会のギャップに強い不満を募らせ、今回の法改正をきっかけに不満を爆発させたのだと思います。他の要因として、経済格差もあるでしょうが、主要因はこれだと確信しています。

ある学校では、教師がデモへの参加を勧めたり、身の施し方を教えているそうです。すでにニュースでも出ていましたが、デモが落ち着いたら中国政府は香港の教育制度にメスを入れると思います。

 

◆おわりに

香港には2年しか住んでいませんが、多くの人は親切で公共心があり、陽気で能力も高く、大好きな場所です。所詮よそ者の私ですが、これからも香港情勢に関心を寄せていきたいと思います。

 

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